「熱いコーヒーが時間とともに冷めていく」「冷たい部屋がヒーターでだんだん暖まる」といった温度変化。私たちは、これが『一次遅れ』的な振る舞いをすることを経験的に知っています。
では、なぜそうなるのでしょうか?実はこの現象は、単なる感覚的なものではなく、物理法則から数学的に証明することができます。
本記事では、その理論的背景を解説したいと思います。
一次遅れ系については以下記事でも解説しています。

熱の移動速度を記述する式
証明の出発点は、17世紀にアイザック・ニュートンが提唱した「ニュートンの冷却法則」です。
ニュートンの冷却法則
熱が伝わる速度は、その物体の温度と周囲の環境温度との差に比例する。
これは非常に直感的で、熱い物体ほど、また周りが寒いほど、速く冷めるということを示しています。
単位面積あたりの熱の流量を熱流束 (q) と呼び、\(q=h(T_外−T) \) と表されます。物体の表面積全体への熱の流入速度 (\(\frac{dQ}{dt}\)) は、この熱流束に面積 (A) を掛け合わせたものになります。
これを数式で表すと以下のようになります。
$$\frac{dQ}{dt} = hA(T_外 – T)$$
- \(\frac{dQ}{dt}\): 物体から流入する熱量の時間変化(W)
- T: ある時刻 における物体の温度(K)
- \(T_外\): 周囲の環境温度(一定と仮定)(K)
- h: 熱伝達率(熱の伝わりやすさを示す係数)(\(W/m^2 K\))
- A: 物体の表面積(\(m^2\))
この式は、境界部分で物体へ流入する熱量の時間変化をモデル化しています。
物体が持つ熱エネルギーを記述する式
一方で、物体内部で蓄積された熱エネルギーはその物体の質量 (m)、比熱 (c)、そして温度 (T) で決まります。
$$Q = mcT$$
この熱エネルギーが時間とともにどう変化するかを見るために、時間で微分します。
$$\frac{dQ}{dt} = mc\frac{dT}{dt}$$
この式は、内部に蓄えられた熱エネルギー変化をモデル化しています。
二つの式の統合(エネルギー保存則)
ここで、重要になるのがエネルギー保存則です。
「物体内部の熱エネルギー変化」は、「物体の表面を通過する熱量」に等しくなければなりません。
つまり、
$$mc\frac{dT}{dt} = hA(T_外 – T) $$
$$\frac{mc}{hA} \frac{dT}{dt} + T = T_外 $$
この式が、温度変化を表す微分方程式となります。
さて、この式を一般的な一次遅れ系の標準的な微分方程式と見比べてみます。
$$\tau \frac{dy(t)}{dt} + y = Ku(t)$$
ここで、yは出力、u(t)は入力、\(\tau\)は時定数、Kはゲインです。今回の温度モデルでは、入力は周囲温度\(T_外\)であり、最終的に物体の温度は\(T_外\)に収束するのでゲインK=1とみなせます。
| 一次遅れ系の要素 | 温度変化モデルでの対応 | 物理的な意味 |
|---|---|---|
| 出力変数y | 物体の温度T | 観測したい対象の温度 |
| 入力(目標値)u(t) | 周囲温度\(T_外\) | 温度が最終的に目指す値 |
| 時定数\(\tau\) | \(\frac{mc}{hA}\) | 温度変化の遅さの指標 |
よって、温度変化を表す微分方程式が一次遅れであることが理論的に導けました。
時定数の物理的意味
ここで時定数について少し考察してみます。注目すべきは、時定数が物理パラメータで構成されている点です。
$$\tau = \frac{mc}{hA}$$
- 質量(m)や比熱(c)が大きいほど、時定数 τ は大きくなります(温まりにくく、冷めにくい)。
- 表面積(A)や熱伝達率(h)が大きいほど、時定数 τ は小さくなります(温まりやすく、冷めやすい)。
これは私たちの日常感覚とも完全に一致します。例えば、大きくて重い鉄球は、小さくて軽い鉄球よりも冷めにくいですよね。
最後に
物理法則から導出された温度変化の微分方程式が、一次遅れ系の数学モデルと一致することを導けました。
何かの参考になれば幸いです。
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